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東京医科歯科大学2007年度入試問題生物

理科二科目で120分、120点。


以下の文をよく読んで、設問に答えなさい。解答は解答用紙の指定された欄に記入しなさい。

とてもよい香りが!

バスを降りて家へ帰る道を歩いていたら、とてもよい香りが漂ってきた。雨上がりの夕方の空気に乗って漂ってきたのは、クチナシの香りだと思った。あたりを見ると、すぐ先の家の庭先に植えられているクチナシが、白い花をたくさんつけているのが見えた。見るよりも前に、香りで花の種類がわかるなんて、僕もちょっとおしゃれだな、とあきら君は思った。もっとも香りで区別できる花は、クチナシとバラとジンチョウゲくらいかもしれないけれど。たしかに、これらの花の香りは違うと感じることができる。でも、香りを区別するって、どういうことなのだろうか。

翌日の放課後、あきら君は早速図書室に設置されているパソコンを使って、インターネットで調べてみた。「香り」で検索しても知りたいことが書かれたページが見つからなかったが、「嗅覚」という項目ではいくつか有用なページがあった。

香り・匂いをどのように感じるかについて、これまで4つの説が提出されていた。1)振動説(匂い分子の機械的振動で受容体が活性化される)、2)化学説(匂い分子が受容体と化学反応して受容体が活性化される)、3)酵素説(匂い分子が補酵素として酵素である受容体を活性化する)、4)立体説(匂い分子が受容体に結合して受容体を活性化する)である。いずれの説も、匂い分子に対する受容体が存在することを仮定している。その後、匂い分子に対する受容体が実際に存在することが明らかになり、嗅覚のメカニズムが解明された。

においは受容体に結合して、脳で識別される。

集めた情報から匂いに関するこれまでの研究をまとめてみたら、次のようになった。

「匂い分子は空気中を拡散することができる揮発性の化学物質で、空気の流れによって鼻の穴に取り込まれ、嗅上皮にある嗅覚の感覚細胞(以下、嗅細胞)によって検知される。嗅細胞には繊毛がたくさん生えていて、細胞膜には匂い分子の受容体が埋め込まれている。$ _{1)}$

この受容体はGタンパク質共役型受容体で、匂い分子が結合すると、その信号が細胞内に伝えられ、アデニル酸シクラーゼが活性化され、二次メッセンジャーとしてサイクリックAMP(cAMP)が産生される。cAMPは感覚細胞の陽イオンチャンネルを開くので、感覚細胞は脱分極して電気信号を発生する。この電気信号、すなわち活動電位は嗅神経を通って最初の中枢である嗅球へと伝わる。さらにここから脳へ伝わり、においとして認識される。」

ちょっと難しいことが欠かれている。「受容体」という言葉は習ったので、生物の教科書をカバンから出してもう一度確認したら、教科書には「受容体は、ホルモン分子が標的細胞にはたらくときに特異的に結合して、ホルモンの情報を伝える役割をするタンパク質」であると書かれていた。教科書にはGタンパク質という語はなかったが、匂い分子受容体はホルモン受容体タンパク質の仲間なのだろう。

もう少し詳しく知りたくなったので、百科事典を借りてきて受容体の項を引いてみた。ホルモン受容体であるGタンパク質共役型受容体は、細胞膜を貫通するように埋め込まれていて、ホルモンが細胞の外側にある結合部位に鍵とか鍵穴の関係のようにぴったりと結合する。ホルモンが受容体に結合したという情報は細胞内へ伝わってGタンパク質を活性化し、Gタンパク質は細胞内のアデニル酸シクラーゼという酵素を活性化する。この酵素は、細胞内にたくさんあるATP$ _{2)}$ を基質としてcAMPをつくり、cAMPは細胞内でいろいろ名化学反応を促進する。ホルモンは細胞に対する最初のシグナルなので一次メッセンジャーと呼び、細胞内で次のメッセンジャーとしてはたらくcAMPを二次メッセンジャーと呼ぶ、と書かれていた。

なるほど、そうすると匂い分子はホルモンと同じようなはたらき方をするのだ。なんだか、とても不思議な気がした。

匂い分子はホルモンの数よりもずっと多く、40万もあると言われている。嗅細胞はこんなに多数の匂い分子をどうやって識別しているのだろうか。

ヒトでは約350種類、マウスなどの哺乳類では約1000種類の匂い分子受容体が発見されていて、それぞれの嗅細胞には、ただ一種類だけのGタンパク質共役型受容体が発現している。たとえばウサギだと、嗅細胞は総数で5000万個あり、受容体の種類は約1000だから、それぞれの種類の受容体を備えた嗅細胞が5万個ずつ存在することになる。

一つの匂い分子受容体には、特定の匂い分子だけが結合するのではなく、いくつかの形の似た匂い分子が結合できる。ホルモンの場合と違って、ぴったりと結合する必要がないらしい。逆に言うと、一つの匂い分子は、数個$ \sim$ 数十個の受容体と結合できる。クチナシのにおいは複数の匂い分子が混ざったもので、クチナシから発せられて複数の匂い分子は、嗅上皮のあちこちに存在するこれらの匂い分子受容体を備えた嗅細胞に結合して細胞を興奮させ、特定の興奮のパターンを作りだす。嗅球箱のパターンを受け取って中枢に送り、脳は記憶と照合することによってクチナシとわかるのだと考えられている。バラの香りは300を超える匂い分子が混ざったものだそうで、クチナシの香り、バラの香り、ジンチョウゲの香りという特定の匂い分子があるのではなく、いくつもの匂い分子が混ざって、それぞれの花の香りを作り出している。

匂い分子

匂い分子は、分子の化学的性質によっていくつかの種類に分類できるが、中でもテルペンには多くの匂い分子が含まれる、テルペン(テルペノイド)は、元々精油の中から大量に見つかる成分の総称で、イソプレン(炭素数5)2個が結合したかたちの化合物をモノテルペンと呼び、後は炭素10個を基準として、セスキテルペン(炭素数15)、ジテルペン(炭素数20)、セスタテルペン(炭素数25)、トリテルペン(炭素数30)、テトラテルペン(炭素数40)と呼ぶ。

ゲラニオール、メントール、樟脳しょうのう、リモネンなどの多くの匂い分子はモノテルペンである。ゲラニオールはゼラニウムで発見された直鎖状モノテルペンで、バラの香りの成分でもある。メントールはよく聞く名前だが、ハッカ油の主成分で、チューイングガムや歯磨きの他、いろいろな用途に使われている。樟脳(カンフル)というと、タンスに入れる防虫剤の独特な匂いを思い出す。血行促進作用、鎮痛作用、消炎作用などを持つために、外用医薬品の成分としても使われ、かつては強心剤としても使用されていた。そのため、いまでも「日本経済のカンフル剤となるだろう」といった表現が使われることがある。リモネンは柑橘かんきつ類の果皮に含まれる匂い分子で、スチレンモノマーと構造が似ているためにポリスチレンを溶解する性質があり、北方スチロールの安全な天然溶剤として、発泡スチロールのリサイクルへの利用が進められている。ゲラニオール以外の3つは、環状モノテルペンである。メントールとリモネンのほんのわずかな分子の形の違いが、ハッカとレモンという違った匂いの原因になるなんて驚きだ。

\includegraphics[width=120mm]{1.eps}

テルペンのなかには、生物の体内でホルモンやその他の生理活性物質としてはたらいている分子もある。たとえば、昆虫の幼若ホルモン$ _{3)}$ はセスキテルペンだし、ビタミンAの前駆対である$ \beta-$ カロチンはテトラテルペンである。

ジテルペンには、タキソール$ _{4)}$ という分子が含まれる、とあった。タキソールという名前はどこかで聞いたことがあるので、百科事典で調べてみたら、次のように書かれていた。

「タイヘイヨウイチイ(Taxus Brevifolia)の樹皮から分離された物質なので、学名にちなんでこの名がある。抗がん作用があるので競って合成が試みられ、1993年に初めて全合成された。日本でも卵巣がん、子宮がん、胃がん、乳がんに対する抗がん剤として認可されている。」

そうだ、確か親戚のおばさんが乳がんと診断されて抗がん剤を使うかどうかという話が出たときに、この名前を聞いたのだった。微小管を安定化して体細胞分裂を阻害するとあるが、微小管てなんだろう?百科事典の別な項目を引いてみると、微小管は細胞の形の保持や運動に関連するタンパク質の一種で、体細胞分裂のときに現れる紡錘糸は微小管からなっている、と書かれていた。

教科書をひっくり返して体細胞分裂の図を見たら、紡錘体が細い紡錘糸の集まりとして描かれていた。染色体のほぼ中央に紡錘糸が結合し、紡錘糸の中央にあたる面上に移動して染色体が並ぶ$ _{5)}$ 様子が連続した図で描かれていた。次いで染色体は紡錘糸に惹かれるようにして両極に移動し、やがて紡錘糸は見えなくなる。こうして体細胞分裂が起こる。

染色体は紡錘体内を移動して赤道面に並び、次いで紡錘糸に引かれるようにして両極に移動するとは、ずいぶん曖昧な書かれ方のように思える。紡錘糸すなわち微小管はどんな役割をしているのだろうか。微小管についてさらに調べてみた。

微小管は、2種類の球場タンパク質を交互につなぎ合わせた長い紐を作って、これを縄文式土器を作るように円筒形に巻き上げた構造をしている。細胞内では、どんどん紐を積み上げていく一方で、反対側を壊していくこともできるので、微小管の長さを変えることができるし、全部壊してしまえば微小管はなくなってしまう。タキソールは、紐を積み上げてできた微小管円筒の内側に入り込んで安定化するために、微小管が壊れにくくなり、体細胞分裂のときには染色体が両極に移動できなくなってしまう。

テルペンの仲間に、こんな働きをするものがあるなんて驚きだ。

テトラテルペンである$ \beta-$ カロチンは、体内で半分に分割されて2個のレチノールになる。レチノールの水酸基がアルデヒドになったものをレチナール、カルボン酸になったものをレチノイン酸という。これらは広義のビタミンAで、脂溶性ビタミン$ _{6)}$ に分類される。ビタミンAが不足すると鳥目(夜盲症)になるとどこかで聞いたことがある。網膜の桿かん体中に含まれる光を感じる色素(視物質)は、オプシンというタンパク質とレチナールが結合した分子で、視物質に光が当たるとレチナールはオプシンから分離して、その結果、光感覚が生じる。だからビタミンAが不足すると視物質が不足して、鳥目になるわけだ。牛の網膜から抽出したオプシンの構造を調べた結果、オプシンはGタンパク質共役型受容体と同じタイプのタンパク質であることがわかったと書かれていた。エー、そうすると、光を感じるのもホルモンと同じように受容体タンパク質が関係しているの?なんだかとても驚いてしまった。

一方レチノイン酸$ _{7)}$ は、脂溶性ホルモンと同じように、特異的な受容体と結合して転写調節因子となり、遺伝情報の発現の制御を行う。

フェロモン

いい香りがすると心が安らぐけれど、考えてみると匂いというのはふだんの生活ではあまり大きな役割を果たしていない気がする。腐っているかどうか怪しいときには、食べる前に匂いを嗅いで確かめることもあるけれど、他に生活の中で嗅覚の必要性があるだろうか。サメが血の匂いで餌のありかを知るとか、昆虫が花の匂いを頼りに密のありかを知るとか、他の動物ではいろいろと役に立っているようだが、ヒトではそういった役割はあまり果たしていないようだ。このほか、他の動物では、匂いによってなわばりを知るとか、雌の居場所を知るとか、いろいろな例が思い浮かぶ。たとえば昆虫では道標フェロモンとか、女王蜂の出すフェロモンとか、いろいろ聞いたことがある。フェロモンというのは、動物の個体から放出されて、同じ種の他の個体に特異的な反応を引き起こすような化学物質だそうだ。昆虫は何種類かのフェロモンをお互いにコミュニケーションの手段として使っている。

脊椎動物の魚類、両生類、爬は虫類、哺乳類でも、フェロモンとしてはたらく分子が知られているが、脊椎動物の場合、フェロモンの受容波及細胞とは別の鋤鼻器じょびきという器官が受け持っている。鋤鼻器の感覚細胞には、繊毛ではなく微絨毛じゅうもうがあり、この細胞膜にはやはりGタンパク質共役型受容体が埋め込まれている。嗅細胞とは異なり、鋤鼻器感覚細胞の受容体の選択性は非常に高く、ピッタリと合わないと情報は細胞内へ送られない。情報は最終的には視床下部に送られ、ホルモン分泌などに影響を与える$ _{8)}$ と考えられている。

花の形作りの仕組み-ABCモデル-

バラの花の香りはどこから来るのだろうか。何となく密と同じように花の付け根からと思っていたが、バラの香りは花弁からやってくる。バラの中には葉が匂うものもある。ちょっと不思議な気がするが、元々葉と花弁は同じ起源だそうだ。一方は光合成を行う葉となり、他方は匂い分子を生産し赤やピンク色の花弁となる。どうしてこんなに違いが生じるのだろうか。発生のところで学んだ分化という現象が、花にも起こっているということなのだろう。興味が湧いたので調べてみたら、シロイヌナズナの花序形成というとっぴっくが見つかった。2000年に植物で初めて、シロイヌナズナの全ゲノム配列が決定され、植物の発生と分化、形作りのメカニズムが遺伝子レベルで理解されるようになってきたと書かれていた。

花は、外側から中心に向かって、がく片、花弁、雄しべ、心皮(雌しべ)の4種の器官が順番に並んでいる。花の形は、これらの4種の器官の色、大きさ、形、数の違いによって作られる。たとえば日本人がもっとも愛でる花である桜の場合、通常は5枚の花弁からなるが、八重桜では花弁の数が数十もある。これは花弁の数が増えることによって引き起こされたのではなく、雄しべの一部が花弁に変化するという変異が原因である。シロイヌナズナの花弁は4枚だが、八重桜で見られる変異と同様に、雄しべが花弁に変化した八重咲き変異体が見つかっている。さまざまな花の変異体を調べた結果、花の器官の形成は、A$ \cdot$ B$ \cdot$ Cの3種類の遺伝子が、がく片、花弁、雄しべ、心皮(雌しべ)に分化する4つの領域でどのように発現するかによって決まるという"ABCモデル"が1990年代になって提唱された。

"ABCモデル"では、外側から中心に向かう4つの領域で順番に、A遺伝子だけがはたらくとがく片、A遺伝子とB遺伝子がはたらくと花弁、B遺伝子とC遺伝子がはたらくと雄しべ、C遺伝子だけがはたらくと心皮ができると考える。さらに、A遺伝子とC遺伝子はお互いにその分化に対する活性を抑制し合い、どちらかの遺伝子の機能が失われると、もう一方の遺伝子がその領域を補うようにはたらくという性質を持っている$ _{A)}$ と考える。その後、A$ \cdot$ B$ \cdot$ Cに相当する遺伝子が見つかり、このABCモデルは多くの被子植物の花の器官形成に当てはまることが明らかになってきた。

ABCモデルのもっともみごとな証明の一つは、A$ \cdot$ B$ \cdot$ Cの3種類の遺伝子が、その機能を完全に失うと、花が葉に変化するということである。これは200年以上も前に、詩人として、また政治家や科学者としても著名なゲーテが、「花は葉のような基本的な器官が変形してできたものである」と述べたことが、基本的に正しかったことを示している。ただし、葉を花に変化させるためには、A$ \cdot$ B$ \cdot$ Cの3つの遺伝子だけでは不充分で、これらの遺伝子以外に、SEPと呼ばれる別の遺伝子が発現して初めて、葉を花の各器官に変えることが可能となることが、最近明らかになった。ショウジョウバエの頭には触覚が生えなければいけないのに、別の体節の構造である肢が生えてしまう突然変異の例があったが、これはその植物版なのだと、あきら君は思った。

味覚も同じような機構で味を感じる

匂いといえば、対になるのが味である。食べたときに変な味がすると、吐き出してしまうというように、味覚はとても重要な感覚だと思う。甘みやうま味などのように好ましい味だと、その食べ物を喜んで食べるが、毒物や腐敗物のような有害な食べ物は苦味や酸味などのような好ましくない味を持っているので、食べても吐き出す。でも人間は酢の物など酸っぱいものを好むようになった。ヒトはちょっとおかしな生き物なのかもしれない。

われわれは、水に溶けた味分子を舌の味蕾みらいにある味細胞で感じ、空気中の揮発分子を鼻の嗅細胞で感じるので、味覚と嗅覚とはすぐに区別できる。水中に住む魚類ではどうなっているのだろうか。調べてみると、魚類では味細胞は舌だけでなく、口腔の中、唇、エラの上似た数あり、さらに口ひげのあるコイ、ドジョウ、ナマズでは、口ひげの表面にも味蕾が多数あり、その他に、ヒレも含めた皮膚のあちこちに味蕾が分布していると書いてあった。つまり、体のいたる所で味を感じるわけだ。一方、嗅細胞は我々と同じように鼻腔に備わっている。ただし魚類の鼻腔は口腔にはつながっておらず、片側に穴が2つ、合計4つあり、前の穴から水が入ってうしろの穴から出て行く。その間に、水に溶けたアミノ酸などの水溶性物質を鼻腔の嗅細胞で受容する。

ヒトの味蕾には、多い場合で100近い味細胞が存在する。味物質は味細胞の微絨毛で受容され、求心性の味覚の感覚細胞によって情報は脳へ送られる。

匂いと異なり、味にはうま味、甘み、酸味、苦味、塩味の5種類の基本単位がある。5つの基本的な味を引き起こす代表的な物質として、グルタミン酸(うま味)、ショ糖(甘味)、クエン酸(酸味)、キニーネ(苦味)、NaCl(塩味)がある。1998年から2001年にかけて、味細胞に発現している5つの基本味に対する受容体が次々と明らかになり、うま味、甘味、苦味の受容体は、いずれもGタンパク質共役型受容体であることがわかった。

ということは、味も匂いと同じように、味分子が受容体に結合して味の感覚が生じるのだ。グルタミン酸もショ糖もキニーネも、それぞれ特異的な受容体に結合し細胞内に二次メッセンジャーを作りだし、電気的な変化を引き起こす。

塩味と酸味はちょっと別で、それぞれナトリウムイオンと水素イオンが、タンパク質でできた穴(チャンネル)を通って細胞の中に入ることによって、電気的な変化を起こすことが明らかになっている。

こうして味細胞で生じた電気信号は神経伝達物質の放出を引き起こし、発生した活動電位は顔面神経と舌咽ぜついん神経を経由して脳に送られる。

酸っぱいものが甘くなる?

酸味と甘味に関して不思議な働きをするタンパク質が見つかっている。ミラクルフルーツと呼ばれる西アフリカ原産の果実は、熟成すると果肉にミラクリンというタンパク質$ _{9)}$ が含まれるようになる。この果実を酸っぱいものと一緒に食べると、酸によって舌の甘味受容体の構造が変わり、ミラクリンが甘味受容体と強く結合できるようになるため、酸っぱいものを食べているのに脳には甘いという感覚が伝わると考えられている。ミラクリンだけでは甘く感じないし、ミラクリンは酸味の通り道をふさがないので酸味も感じるが、甘さを強く感じるために全体としては甘いと感じる。

一方、インドに自生する薬草の一つは、昔から甘味を抑える働きがあることが知られていた。この薬草の葉をあらかじめ口に含んで噛かんでおくと、後からショ糖をなめても甘味を感じなくなる。この薬草の有効成分は、トリテルペンの基本骨格にD-グルクロン酸が付加したギムネマ酸であることが明らかになった。グルクロン酸部分では甘味受容体に結合するが、ギムネマ酸自体では甘味を引き起こさず、ショ糖が甘味受容体に結合するのを妨げるために、ショ糖は甘く感じられなくなる。ここにもテルペンが出てきたのでびっくりした。

このように、味覚はとても繊細でかつ微妙な感覚である。前に食べたものによって、甘いものをより甘く感じたり、甘く感じなかったりすることがある。あるいは全く別の味に感じられることもある。

食べ物のことをたくさん調べていたので、いつの間にか口の中が唾液で一杯になってしまった。唾液の中には麦芽糖を分解するマルターゼが含まれていて食べたものを消化したり、固形の食べ物に水分を与えて飲み込み易くするなど、消化や吸収に役立っているばかりでなく、殺菌性の酵素も含まれている。またナトリウムイオンや塩素イオン、炭酸水素イオンが含まれていて口の中のpHを調節している。何も食べていないのに唾液が出てきたので、早く食事をしろということらしい、家へ帰って夕食だと、あきら君は図書室を後にした。

問題1
上の文の下線1)$ \sim$ 9)に関する問いと問い10)に答えよ。

$ 1)$
細胞膜の厚さは8$ \sim$ 10nmである。匂い分子受容体がどのように嗅細胞の細胞膜に埋め込まれているか、細胞膜を2本の平行線で描き、受容体を円筒として模式的に描け。また、細胞外と細胞内を明示し、匂い分子を受容する位置を引き出し腺で示し、さらに二次メッセンジャーが作られる空間を示せ。
$ 2)$
ATPが主として作られる細胞小器官の名を書け。
$ 3)$
幼若ホルモンは前胸腺ホルモンとともに昆虫で変態を制御するホルモンである。脊椎動物のカエルも変態する。カエルの変態を促進するホルモンの名前を書け。
$ 4)$
タキソールはどのようにして体細胞分裂を阻害すると考えられるか。
$ 5)$
体細胞分裂中期に、染色体は赤道面にどのように配列すると考えられるか。$ 2n=4$ として赤道面を斜め上から見た図を、相同染色体が区別できるようにして模式的に描け。また、第一減数分裂中期の場合はどうか、同様に描け。
$ 6)$
水溶性ビタミンであるビタミンB群はタンパク質と共同して細胞内の呼吸に深く関係している。このような働きをする分子を何というか、書け。
$ 7)$
レチノイン酸が細胞内で転写調節を引き起こす経路について、述べよ。
$ 8)$
視床下部は、脳下垂体前葉からのホルモン分泌にどのようなやり方で影響を与えていると考えられるか、書け。
$ 9)$
タンパク質はアミノ酸から構成されているが、アミノ酸同士の結合を何というか、答えよ。
$ 10)$
魚類では、同じアミノ酸が鼻腔で匂いとして感受される場合も、口で味覚と感受される場合もありうる。匂いとして感じているか味として感じているかを実験的に明確にするには、どのような方法が考えられるだろうか。本文や問題文を参照してその方法を述べよ。

問題2
次の問1から問3に答えよ。

問1:
シロイヌナズナの変異体は、以下の3種類のタイプに分けられることが知られている。外側から中心に向かって、(イ)心皮-雄しべ-雄しべ-心皮と並ぶもの、(ロ)がく片-がく片-心皮-心皮と並ぶもの、(ハ)がく片-花弁-花弁-がく片と並ぶもの、である。

正常およびイ、ロ、ハ、3種類の変異体では、A$ \cdot$ B$ \cdot$ の遺伝子の発現パターンはどのようになると考えられるか、回答欄の四角の中にそれぞれ書き込め。

問2:
八重桜などの"八重咲き"は、どのような変異によって引き起こされたと考えられるか、述べよ。
問3:
下線A)のようにA遺伝子とC遺伝子のはたらきによって、形態が大きく異なる花の構造が形成される。これはどのような仕組みで起こると考えられるか、述べよ。

問題3
本文と次の問題文をよく読み、グラフを参照して、問1から問3に答えよ。

人を使って、咲きに口にしたものが次に食べたものの味覚にどのような影響を与えるかを調べるために、あらかじめ以下の溶液で舌を慣らしておいた(順応させた)後に、甘味と塩味のみ書くに与える影響を調べた。被験者は、水($ H_2O$ )、ショ糖あるいはインド原産の薬草成分X(ギムネマ酸)の水溶液で口をすすいだ後に、濃度の異なるショ糖あるいはNaClの溶液を口に含み、味覚の強さを測定した。対照として、何もせずにすぐにショ糖あるいはNaClの溶液を口に含んだ場合を「前処置なし」とした。

\includegraphics[width=120mm]{2.eps}

問1:
4つの基本味(塩味・甘味・酸味・苦味)のする物質の0.1M水溶液を口に含んだときに、それぞれ単一の味覚神経から活動電位のスパイク(耳管軸を圧縮しているので、活動電位の波形が1本の線に見えるためにこの名がある)を測定して記録できるとする。薬草成分X(ギムネマ酸)に順応させる前と後について、測定記録を比較した(図3)。図2を参考にして、NaClあるいはショ糖を口に含んだ場合における薬草成分X(ギムネマ酸)順応後に予想されるグラフを書け(イとロ)。

\includegraphics[width=120mm]{3.eps}

問2:

$ (1)$
薬草成分X(ギムネマ酸)は4つの基本的な味覚に対してどのような作用を持っているか。
$ (2)$
ショ糖および薬草成分X(ギムネマ酸)による順応が、甘味に対して与える影響について比較し、説明せよ。

問3:
$ 10^{-2}M$ 程度の薄いNaCl液を口に含んだときに、わずかな甘味が感じられることがある(図2下)。

$ (1)$
塩味の感覚がどのようになったときに、薄いNaCl液を甘いと感じるか。またそう考えた根拠も示せ。
$ (2)$
前処置なしでは薄いNaCl液を甘いと感じないのはなぜか。理由を考えて書け。

問題4
本文にあげた3つの感覚の受容機構について、共通する点と異なる点を、整理して述べよ。

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